022564 ランダム
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見習い魔術師

見習い魔術師

大泥棒と押しかけ女棒


「おぉ―――っほっほっほっ!!」
皆寝静まった夜の街、満月の輝く光を浴びてこちらに影を落としながら、例のごとく、その女は高笑いをした。
まったく、黒のイヴニングドレスに、かかとの高い黒のハイヒール。黒い鳥の羽ででかでかと飾られた黒の目元を隠す仮面、首には黒く光るスカーフを巻き、肘より上で終わる手袋は、レースを惜しみなく使った真っ黒で高価そうなものだ。豊かな唇まで黒く塗ってある彼女の仕上げは、とてつもなく襟の高い、足首まである大きなマント。もちろんこれも真っ黒だ。
人様の屋根の上で高らかに声を上げるその人物を見て、キールはげんなりとした。
「・・・レイヴィア・・・」
その口調をものともせず、レイヴィアは明らかに感動した様子でまあ!と叫んだ。
「まあまあまあ!キール様っ!!んまぁっ!!ワタクシを覚えていてくださったのね!!ああ、何たる感激!何たる至福!!」
きゃあきゃあきゃあゃあ一人で騒ぎ立てるレイヴィアに、キールは片頬を引きつらせた。奇妙にゆがんだ笑みの形になる。
「毎度毎度現れて、覚えないほうがおかいーぜ」
誰にとも無く呟く。
まったく、とんだ災難だ。
打ち明けて云えば、キールは泥棒だ。それも、とびっきりのプロ。
あまりに誰も彼を捕まえられないので、ついに中央から腕前のいいその女刑事が派遣された。そう。女刑事が・・・。
「ああっ、ワタクシがこれほどまでに美しいから、キール様は夜な夜なワタクシを夢に見て・・・」
だんだんと自画自賛にも取れないことも無い台詞を吐き、くねくねと踊りだしたレイヴィアを見て、キールはひそかに毒づく。
「アホか・・・」
何をどう間違えたのか、この女刑事、オレ見てすぐに同業者に転職しやがった。・・・いや、今は女泥棒・クイーラか。
やってらんねぇ。
心の中で呟き、さらに面倒なことにならないうちにこそこそとその場から離れようとした・・・そのとき。
「と、云うわけで!!」
なにが「と、云うわけ」なのか分からないままに、常の癖でキールは全速力で駆け出した。
その後ろを、屋根の上からひらりと飛び降りたレイヴィアが恐ろしいほどのスピードで追いかけてくる。
「今日こそは!ワタクシ、レイヴィアのモノになって頂きますわよ、おぉ―――っほっほっほっほっ!!!!」
キール様ーと叫びながら追ってくるレイヴィアから本気で逃げながら、キールは叫んだ。
「ざけんじゃねぇぞ馬鹿ヤロ―――――!!!!!!」


後日談 * * *

大泥棒・キールと、その押しかけ女房レイヴィアの噂はすでに街中に広まっており、夜な夜な繰り返されるその短劇を知らないものは屋根裏のねずみの中にもいないということを、キールは知る由も無い。




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